現在、日本国内で猛威をふるっているインフルエンザ。
インフルエンザ脳症で入院していた、6歳未満の女の子が脳死と判定され、臓器移植が行われることになりました。
この女の子はインフルエンザに感染した後に、脳症を発症し、東海地方の病院に入院していました。
しかし女の子は脳死と判定され、家族の承諾により、他の人に臓器提供することが決まったのです。
女の子から摘出された臓器のうち、肺は男の子、肝臓は女の子に移植される予定です。
6歳未満の子どもの脳死による臓器移植は、国内で5例目となりました。
●移植を待つ子が救われない現状
日本で子どもの移植が認められるようになって5年半がたちますが、子どもの移植の件数はたったの5件と、まだまだ少なく、移植を待つ子どもたちが救われていないという現状があります。
子どもの移植が少ないのは、「施設の体制が整ってない」「家族が提供を望まない」などの理由によるそうです。
そんな中、わが子の臓器提供を決意した、ご両親の心境とはどのようなものだったのでしょう?
臓器移植ネットワークを通じ、今回臓器提供が決まった、東海地方の女の子の、両親が手紙を公表しました。
●父親からの手紙
<以下全文抜粋>
Aちゃんが体調を崩してからお父さんとお母さん辛(つら)くてね。
毎日毎日神様にお願いしました。目に見える物全てに、お山に行ってお願いして、川が見えればお願いして、海に向かっても……いろいろ神社なんかも夜中に行ってお願いしました。最後には落ちている石ころさんたちにもお願いしたんだよ。
でもね、どうしてもAちゃんとお父さんを入れ替えることはできないんだって。もう目を覚ますことはできないんだって。もう長くは一緒にいられないんだって。
お父さんとお母さんは辛くて辛くて、寂しくて寂しくて泣いてばかりいたけれど、そんな時に先生からの説明でAちゃんが今のお父さんやお母さんみたいに涙にくれて生きる希望を失っている人の、臓器提供を受けなければ生きていけない人の希望になれることを知りました。
どうだろう?Aちゃんはどう思う?いやかな?
お父さんやお母さんは悩んだ末、Aちゃんの臓器を困っている人に提供することを決めました。もしいやだったらゴメンね。
お父さんもお母さんも臓器を必要としている人がたくさんいて、その人を見守る人たちがどんなにか辛く苦しい思いをしているか知っています。もしその人たちにAちゃんが役に立てるなら、それは素晴らしいことだと思ったんだよ。
一人でも人の命を救う。心を救う。ってすごく難しいことでお父さんもできるかわからない。だけど、とても素晴らしく、尊いことなんだよ。
もしAちゃんが人を救うことができたり、その周りの皆さんの希望になれるとしたら、そんなにも素晴らしいことはないと思ったの。こんなにも誇らしいことはないと思ったの。Aちゃんが生きた証(あかし)じゃないかって思ったの。今のお父さん、お母さんみたいに苦しんでいる人が一人でも笑顔になってくれればどんなに素晴らしいだろうと思ったの。
そして、その笑顔はお父さんやお母さんの生きる勇気にもなるんだよ。
いつも周りのみんなを笑顔にしてくれたAちゃんだから、きっとまた世界の笑顔を増やしてくれるよね?
命は繋(つな)ぐもの。お父さんとお母さんがAちゃんに繋いだようにAちゃんも困っている人に命をつないでくれるかな?
願わくば、お父さんとお母さんがAちゃんにそうしたように、AちゃんもAちゃんが繋いだその命にありったけの愛を天国から注いでくれると嬉(うれ)しいな。
お父さんより
死にゆく子どもと、その親の苦しみを知っているからこそ、死の病と闘うほかの子どもたちに、愛する娘の臓器を提供するための決断をしたのですね。
病気の娘と自分が変わってあげたい。
目に見える物全てにすがって、お祈りしていたご両親の気持ちを思うと、涙が止まりません。
短い人生を終える我が子の「生きた証」、他の子の中でわが子が生き続けて、みんなに愛情を注いでもらえたら…。
苦境の中、身を切るような選択と死にゆくわが子の幸せを願う親心だったんですね。
<出典>
朝日新聞デジタル
Photo by Marcin Moga