小児科などで医師から、冷たい態度をとられた経験はありませんか?
わが子の病気やけがに、張り裂けそうな気持ちになっている時に、無神経な態度をされて、腹立たしくも悲しくもなるかもしれません。
しかし、そんな医師たちが、どんな気持ちで仕事をしているのか、わからないものです。
●「無責任な医者だ!」ある父親と小児科医のやりとり
ある時、一人の子どもが交通事故で重傷を負い病院に運ばれてきたのですが、手術をする医師がなかなかやってこないのです。
息子の命にかかわるような事態なのに、何をのんびりしているのか?
父親は当然憤慨し、遅れてやっていた医師に「なんて無責任なんだ!」と詰め寄りました。
医師はにっこり微笑んで「すみません、病院の外にいたので…。急いで駆け付けました。どうか落ち着いてください、これからすぐにオペを始めます」と言いました。
その物の言い方に、父親はさらに腹を立て、食ってかかりました。
「落ちつける訳ないだろう!もし、あんたが、自分の息子の同じ状態だったら、落ち着いていられるのか!?」
医師は静かに微笑んで「確かに医師は完璧ではありません。でも、あなたの息子さんのために全力を尽くします。心配せずに、わたしに任せてください。」と続けますが、男の子の父親は「どうせ自分には関係ないと思って!そんなうわべだけの話はうんざりだ!言うだけなら簡単なんだよ!」と怒鳴り続けました。
●驚愕の事実…
手術は何時間にも及ぶ、大がかりなものでした。
やがて、さきほどの担当医師がほほ笑みながら手術室から出てきて「ご安心ください、手術は成功しました。息子さんは助かりましたよ。何かありましたら看護師に聞いてください」そして、言い終わるとすぐ、父親の顔も見ずに、腕時計を見て、大急ぎで走り去ってしまいました。
男の子の父親は、どこまでも患者を馬鹿にした医師の態度に、あきれてしまいます。
近くにいた看護師に「あのふざけた医者は、いつもあんな態度で診察しているのか?」と声をかけます。
すると看護師は、目をうるませて言ったのです。
「あの医師の息子さんは、昨日、交通事故で亡くなったんです。
さっき手術の呼び出しを受けるまで、彼は、息子さんお葬式に出席していたんです。
しかし、あなたの息子さんを救うために、葬儀を中断して、病院に来て何時間ものオペをして、これからまた、埋葬される息子さんのもとに戻るんですよ」
これを聞いて、患者の男の子の父親は、言葉を失い、涙を流したことでしょう。
●医師も人間
子どもを連れていると、専門家の態度に疑問をもつ場面も多くあります。
冷たい小児科医、無神経な看護師、不機嫌な保育士…。
しかし、彼らはプロであると同時に、父や母だったりもするのです。
人はどんな形であれプライベートや、知られざる過去があるものです。
その裏側が楽しいものか嬉しいものか、あるいは悲しいものかなど知ることはありません。
そしてその人の身に何が起こっているのか、最初から知ろうとする人は、なかなかいないでしょう。
人の心情を理解せずに、すぐに罵倒するよりも、相手のことをより知ることで歩み寄れることがあるのですね。
Photo by Loren Kerns