スコットランドに住む、5歳のナオミちゃんには、アイザック君という双子のきょうだいがいます。
いよいよ初等学校に通うことになり、母親のミリアムさんは不安でいっぱいでした。
なぜなら、ナオミちゃんとアイザック君は2人とも自閉症だったからです。
●何重ものハンデを抱える少女
ナオミちゃんは、自閉症と選択性無言症をあわせ持っていました。
一人で洋服の着脱もできず、トイレも済ませることができません。
家庭以外の場所では言葉が出ず、何時間でも黙りとおします。
そのため、幼稚園を通常より1年多く通い、義務教育のスタートを遅らせましたが、1学年下の子たちの中でも最も体が小さい状態でした。
ナオミちゃんの双子のきょうだい、アイザック君は、さらに重度の自閉症で、腫瘍もあり、全ての発達が遅れていました。
言葉も全く話せず、パニックを起こすこともあり、行動がコントロールできません。
両親は、つい重度のアイザック君のお世話に追われ、軽度のナオミちゃんのフォローが後回しになることも多かったのです。
そんな環境で育ったナオミちゃんは、一人だけで普通学級に通うことになりました。
自分も自閉症で、無言症で、双子の「きょうだい児」(=障がい者のきょうだいの子・親のケアが不足しがち)でもある、という何重にもハンデを抱えたナオミちゃんの環境。
スクールカウンセラーなどの専門家も、このきょうだいがどんな問題を抱えているのかを、確実に理解できていないようでした。
ミリアムさんは、ナオミちゃんを学校に見送る瞬間すら、自問自答していました。
「普通学級にしたけど、本当にその選択でよかったのか?」
「ナオミがしゃべれない時、誰が理解してくれるのか?」
「小さくて力の弱いナオミは、クラスでいじめられるのでは?」
「アイザックがいる家でのストレスのせいで、勉強ができないのでは?」
不安はつきず、考えれば考えるほど心配になりました。
しかし、最初の一週間が過ぎ、ミリアムさんが担任の教師から聞いたのは思いもよらぬ話でした。
●ナオミちゃんがクラスを変えた!
クラスの副担任の先生によると「障がいをもった、小さくて静かな女の子が、一瞬でクラスを変えた」というのです。
実はナオミちゃんのほかに、クラスには英語を話せない、外国人の子たちが2人いて、ナオミちゃんの近くの席に座っていました。
1人の副担任の先生がまとめて面倒をみやすいようにしていたのです。
3人は言葉を話すこともなく、とても静かでした。
絵を描く授業の時、ナオミちゃんは、先生の説明を真剣に聞いていました。
「紙の真ん中に絵を描いて、絵の上に名前を書いてください」
説明が終わると、クラスの子どもたちは一斉に絵を描き始めましたが、ナオミちゃんは、じっと何かを見ていました。
説明が理解できないかったのでしょうか?
いいえ、ナオミちゃんは、副担任が、言葉の通じない子どもに、どうやって説明しようか困って悪戦苦闘いる姿を、観察していたのです。
ナオミちゃんは無言で立ち上がると、2人の席に歩み寄り、一人ずつ、手をとって、水筒についている名前を指さして、それから紙の上部を指さしました。
そして、クレヨンをとると、紙の中央にうっすらと印をつけ、他の子たちがやっていることを指さしました。
2人が内容を理解して、絵を描き始めるのを見届けてから、ナオミちゃんは自分も席に戻って、自分の絵を描き始めたのです。
小さな自閉症の女の子が、言葉のわからない子たちに、無言で、しかもわかりやすくフォローをしている場面をみて、副担任は思わず涙ぐみました。
担任の先生も、その様子をずっと見守っていました。
クラスで一番ハンデを抱えている女の子が、クラスの全員に教えたのです。
コミュニケーションが難しい相手に、どうやってコミュニケーションしたらいいのか、一言も話すことなく示したのです。
言葉をしゃべれない、重度のハンデを抱えたアイザック君との生活によって、ナオミちゃんは学習していたのでしょう。
「言葉を使わなくても、人を助けることができる」ということを。
彼女には、相手の気持ちに立って、どうやって伝えたら理解してもらえるか、想像する力がありました。
クラスの子どもたち全員、教師たちまで、ナオミちゃんに学ぶことができました。
母親のミリアムさんは、これから先も、ナオミちゃんがいくつもの困難に直面することを心配しています。
しかし、毎日のハンデや困難も、美しい出来事に変えてしまう、ナオミちゃんの『力』を信じていると語ります。
「ナオミはわたしの自慢の娘です!」ミリアムさんは笑顔でナオミちゃんを抱きしめます。
本当の障がいとはなにか、人生で最も大切なことはよい方向へ変えていく力なのではないかと、考えさせられますね。
<出典>
https://faithmummy.wordpress.com/
http://www.scotsman.com/
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