「抱きしめた母のぬくもり」は、多くの人が、大人になってからも思い出せる、幸せな記憶かもしれません。
そして時には、医学も説明できないほど、絶大な力を発揮するようです。
●余命20分の赤ちゃん
イギリスのキャロライン・イスビスターさんは、待望の子宝を授かりました。
大事な赤ちゃんのためにと、食べ物や運動にまで気を付けて、妊娠生活の幸せをかみしめていました。
しかし妊娠24週目に、お腹に強い痛みを感じ、病院へ運ばれました。
痛みはどんどんひどくなり、何度も襲ってきます。
なんと、陣痛が来ていたのです。
そのまま、キャロラインさんは、体重500グラムの小さな女の子を出産しました。
生存が難しい、超未熟児の状態です。
しかし、赤ちゃんの心臓は10秒に1度しか動いておらず、呼吸もほとんどしていません。
早産の原因は、子宮内の炎症でした。
医師は、赤ちゃんはもう助からないと判断し、これ以上苦しませるような延命治療はせずに、赤ちゃんとキャロラインさんを静かにお別れさせてあげることを選びました。
キャロラインさんは医師から「赤ちゃんは、あと20分ほどの命でしょう」と聞いて、絶句します。
愛するわが子に会えたのに、すぐに永遠に別れなければいけないと知り、涙が止まりませんでした。
赤ちゃんに『レイチェル』と名前を付け、腕に抱きました。
そして、キャロラインさんは赤ちゃんを包んでいたおくるみをそっと開き、裸のレイチェルちゃんを、自分の胸に抱きしめたのです。
「最後は温かくしてあげたかったの。なんとなく、直感的にそう思ったの。」
1分ずつ失われていく、わが子との貴重な時間を、体に刻み込むように、キャロラインさんは愛おしそうに抱きしめていました。
その時、奇跡が起こったのです。
●奇跡を起こした『カンガルーケア』
母の胸に抱かれていたレイチェルちゃんの呼吸が増え、いつしか規則正しく寝息を立てていました。
そして、小さな泣き声まであげたのです。
その様子に気付いたキャラロインさんも医師も、驚いて、目を見はりました。
「とても信じられなかった。でも『生き返った!』と期待したらまた悲しくなると思って。でもレイチェルをあきらめられない気持ちもあって…、わたしは心が揺れました。」
せめて生きているうちにと、病院の牧師さんに駆けつけてもらい、母の胸に抱かれたまま、レイチェルちゃんは洗礼を受けました。
「抱いたまま、この子が息を引き取るのを見届けよう、そう思い、じっと見つめていました」
しかし、レイチェルちゃんは死ぬどころか、さらに肌は健康的なピンク色になり、呼吸も深く安定してきたのです!
レイチェルちゃんはすぐに集中治療を始めることになりました。
そして保育器のなかですくすくと成長。5週間後に人工呼吸器がはずれ、生後4か月で体重4000gになって退院となり、両親と幸せな生活がスタートしました。
「今一緒にいられることは奇跡でしかありません。あの時、余命20分と診断されたレイチェルを、抱き続けて本当によかった!」
キャラロインさんは、レイチェルちゃんを抱きしめて、語ります。
裸の赤ちゃんを、母親の素肌と触れ合わせて抱く『カンガルーケア』。
医学的に説明がつかないものの、その効果は大きいと認められ、現在多くの産院で取り入れられています。
<出典>
Mail Online